この度、鈴木祐一先生 (早稲田大学) の計らいによってJ-SLARFに Duff & Yamamoto (2026). Language socialization approaches to second language acquisition in changing multilingual contexts の出版体験記を寄稿いたしました。2026年7月29日にメーリスで配信されたものをこらちにも転載します。
===
大変お世話になっております。カナダ、ブリティッシュコロンビア大学・言語リテラシー教育研究科博士課程の山本大です。
この度、UBCの指導教官であるPatricia (Patsy) Duff先生との共著分担章が Alternative Approaches to Second Language Acquisition (2nd Edition; 編: Dwight Atkinson & Elena Taylor) の第六章として出版される運びとなりました。
Duff, P. A., & Yamamoto, M. (2026). Language socialization approaches to second language acquisition in changing multilingual contexts. In D. Atkinson & E. Taylor (Eds.), Alternative approaches to second language acquisition (2nd ed., pp. 119–145). Routledge. https://doi.org/DOI:10.4324/9781003426516-6
【📍本書・担当章に関して】
本書は2011年に出版された同書第1版の後継本で、計9つの「オルタナティブな (=メインストリームの認知・心理中心的志向ではない) SLAアプローチ」に関し、各理論的視座・研究分野のパイオニア/第一線に立つ研究者が執筆した章から編纂されています(最も第1版発売当時から比べると、それぞれの視座がある意味で比較的ポピュラーなオルタナになっている気もしますが)。
第1版 (2011) がSLAにおける認知主義への社会的視座に立つ研究者たちからの応答、またSocial Turn以降の視座間の交通整理などを担った(と雑に表現する)として、第2版となる本書は前版の歴史的背景を踏まえた上で、それ以降のSLAや応用言語学内外の議論や転回 (例えばmultilingual turn, Douglas Fir Groupのtransdisciplinary orientations, translanguaging equitable multilingualism, intersectional justice/social justice, decolonization) を色濃く反映していると言えます。これらに関してはHall (2018)や本書序論をご覧ください。第二版の構成は以下のとおりです。
- 複雑系理論: Diane Larsen-Freeman, Diane Larsen-Freeman, Ali H. Al-Hoorie, Phil Hiver
- 社会文化理論: James Lantolf, Jiao Xi
- ポスト構造主義アイデンティティ理論: Bonny Norton, Carolyn McKinney
- 会話分析: Simona Pekarek Doehler, Klara Skogmyr Marian
- 言語社会化理論: Patricia Duff, Masaru Yamamoto
- 脱植民地化的視座: Lourdes Ortega
- コーパス言語学: Xiaofei Lu, Yuanheng (Arthur) Wang
- アセンブリッジアプローチ: Steven L. Thorne, John Hellermann
- 社会認知理論: Dwight Atkinson, Elena Taylor
錚々たる執筆陣の中に一人紛れてしまい、どう考えても場違い甚だしい感もありつつ「まだ青い自分だからこそ提供できる視座は何か」を考え続けながら執筆を行いました。
【✍️担当章と執筆に際して】
今回Duff先生と私は「(第二)言語社会化理論 (Language Socialization, LS)」を担当しました。
LSの視点を端的に述べると「私たちはどのように周囲の人々や社会環境、様々な物質性とのやりとりを通じて目標言語を学びつつ、当該言語が使われるコミュニティの文化や期待される振る舞い方を身につけ、その共同体の成員となっていくのか—または別の軌跡へと帰結していくのか—の過程と成果を捉えようとするアプローチです。
多くのSLA研究が言語を形式的要素 (e.g., 文法・語彙・音声)として捉えるのに対し、LSは言語を「コミュニティの中で常に使われ、変化し、ときに自己の内側や他者との関係性においてぶつかり合う “社会的な実践”」として捉えます。したがってLSの視座が捉えようとする「学び」も、語彙や文法などの形式項目の習得だけでなく (もちろんこれらも重要な焦点ですが、扱いが異なります; Kobayashi & Kobayashi, 2018)、敬語の使い方 (クック, 2023)、冗談の言い方 (Shively, 2013)、言語実践内で(再)生産される言語や人種、ジェンダーイデオロギー (Burdelski, 2021; Diao, 2016; Talmy, 2010)、さらに「自分は (他者や想像する自己像と相対化した際に) 何者か」(Anya, 2016; Park & Lee, 2022)というアイデンティティの問題まで含みます。
Douglas Fir Group (2016) のモデルを援用するならば、従来のSLAの関心であるミクロレベルな相互行為的あるいは個人レベルの言語的側面・情意面を分析の中心 (あるいは射程内) に据えつつも、それらを個人差要因などに還元せず (i.e., not psychologizing) ミクロレベルの要素がどのようにメゾレベルの組織制度的コンテクスト、またはマクロレベルの社会通念や規範、イデオロギーなどと不可分であり、密接に関連しているか (生産/表出・再生産・変容) を分析します (DFGではmacro-meso-microのモデルとして挙げられましたが、LSは80年代からこうした複層的射程をとっています。)
身近な問題に落とし込むとすれば「私たちや学生がどのように留学先で現地のクラブに溶け込んでいくか、ルームメートと仲良くなる/らないか、構造的な障壁にぶつかるか、あるいはそれらを乗り越える/乗りこなすか (山本の博論です)」「英語のできない山本がどうやってゼミの十全な一員になっていくか(山本個人の実例です)」「ジャパニーズオンリーの日本語学習環境でどういう英語使用はセーフで、どういう英語使用はアウトか、またそれらはどういう教育信念やイデオロギーと交差しているか (Burdelski, 2021)」などです。
こうした理論的土台や近年の発展を簡潔に描写したのち、LS研究で使用される研究手法の概略 (エスノグラフィーやその性質を用いた質的事例研究が主です) を提示しつつ 、研究者ポジョショナリティと自己省察性 (self-reflexivity) の重要性を確認、その後LS研究の従来的テーマから最新の研究動向に関して、可能な限り幅広いジャンルやモダリティ、目標言語や研究参加者のアイデンティティやコミュニティを取り上げ、他理論との共同的対話の可能性を提示し、結論へ流れていきます。
【💭出版を振り返って】
他の章にも言えることですが、LS章は第1版と第2版で執筆者が変わっています。Patsy Duff先生は前作から継続、第1版の共著者であるSteven Talmy先生 (UBC) の後継として、私山本が加わったかたちとなります。私自身が第1版Duff & Talmy (2011) から大きな影響を受け、現在の進路に進むきっかけとなったチャプターでしたので、はじめに本共著のお話しをPatsyからZoomミーティングの最後にいただいたときには (いい意味で) 呆気に取られたことを覚えています。自分の人生を導いた章を自身が受け継ぐということに感慨もあり、また大きな責任感とプレッシャーを感じていました。自身が特にSteven Talmy先生の研究の大ファンであり、彼の学識の広さと深度、また批判的眼差しの切れ味には (ある種の「勝ち目」的な意味で) 遠く及ばないと理解していたためです。
こうした大前提に立った上で、第1版を「憧憬の対象」や「ライバル」として「勝ち目」を探るのではなく、第1版の知的貢献を礎に、執筆当時の自身だからこそ成し得る更なる貢献は何か、執筆当時や未来の応用言語学・SLAに急務となる議論は何かを模索するのが建設的だろうと思い至りました。そして第1版を幾度と読み返す中で、例えば「L2社会化の場やモダリティが少し限定的だな」や「今のL2社会化のスコープはもう少し広いな」や「研究場所や学び手のポピュレーションや目標言語がちょっと寄ってるかな」「ポジショナリティやリフレキシビティは2010年代よりもっと前景化されてるし明示的に議論に加えた方がいいよな」という今日の研究動向や分野全体が共有する問題意識に根差した貢献の糸口や「認知と社会の二項対立を深めるよりcross-fertilizeする道を模索したいよな (でもSLAが想定する「習得」は近代西洋的かつ象徴的な力を帯びた言語を中心にした価値観に基づいている気がして、これは問題だよな) 」という問題意識や伝えたいメッセージを明確化できました。
Duff先生との共著時にはまず全体的な構成や主張の大枠を決めた上でそれぞれの主分担を割り当て執筆というのがお決まりの流れになっていますが、互いが互いの項目に加筆修正や小面を加えたり内容を移動させるうちに、それぞれが全項目に貢献をするという結果になっています。こうした思考・執筆過程を経て、文字数や共著という文脈の中で可能な限り反映させたものが本章になります。Duff & Talmy (2011) の持つ理論的深みや批判性の鋭度に立脚した上で (今も「及ばずも」と書くか迷っていますが、執筆目的や時代背景その他が大きく異なるので、あえて括弧外の「立脚した上で」という表現を用いることにしました)、LSアプローチの包摂性や裾野の広さ、可能性を狭義のLS-SLA研究のみに捉われず、広く応用言語学やSLAの議論や関連領域の研究と結びつけた作品となりました。本書の中ではある意味で他のチャプターとのインターセクション (交差点) として読んでいただくことができるかなと思います。
本執筆には執筆期の私のできる限りを注いだつもりですが、時間が経って振り返ると、紙面の都合で外す選択をした内容以外にも、自身の見識不足により当時は議論の射程にすら入れ損ねてしまっていた重要なことが多々あることに気づきます (もう少し前に出ていたあの文献やその文献ではこういう論者を援用してこの議論に絡めてたなぁ、など)。そうした限界は常に付きものと考え、知の広範さと深度への畏敬の念を忘れずに学び続け、今後の出版や研究実践で取り組んでいきたいと考えています。
そしてこうした既存の知への再訪や新しい地平を拓くためには、読んでくださった皆様のによる批判的検討や要請、忌憚なきご意見が必要不可欠です。もしもご縁あって本チャプターをお読みになってくださった方がいらっしゃれば、ぜひ様々お考えををお寄せいただけますと嬉しく存じます。
【💡おすすめの読み方・もっと知りたい方へ】
LS理論自体や応用言語学/SLAにおけるLS研究に関して、J-SLARFコミュニティの皆さんにとって取り掛かりやすいであろう文献をいくつか紹介させていただきます。
★ LS理論に関して
クック峯岸治子, & 高田明. (2023). 日本における言語社会化ハンドブック. ひつじ書房. https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1049-9.htm – 言語社会化理論に関して日本語でまとめた超画期的なハンドブックです。現在クラシックと呼ばれる超重要文献が日本語訳で収録されており + 日本語 (環境下での) 研究が多数収録されており取り掛かりやすいです。
Duff, P. A., & Talmy, S. (2011). Language socialization approaches to second language acquisition: Social, cultural, and linguistic development in additional languages. In Alternative Approaches to Second Language Acquisition (1st ed.). Routledge. https://doi.org/10.4324/9780203830932-5 – 意外に思われるかもしれませんが、L2研究におけるLSの導入は私的推しは今も変わらずDuff & Talmy (2011) です。まずはこれを読んでわかる場所のみさらってもらい研究・理論の射程を掴んでいただき、かつよくわからなかった部分に関してDuff & Yamamoto (2026) で別の角度からの説明を読んだり、Duff & Talmy (2011) では語られていない研究の射程を知っていただけるといいかなと思います。
Duff, P. A. (2007). Second language socialization as sociocultural theory: Insights and issues. Language Teaching, 40(4), 309–319. https://doi.org/10.1017/S0261444807004508 – L2研究におけるLS理論や分析のスコープなどに関し、もう少し痒いところに手を伸ばしてくれる系の論文です。一般的にSocial SLAはSCTが入り口になることが多いと思いますが、SCTとLSの射程の違いや理論的影響に関して詳しく書いています
Ochs, E., & Schieffelin, B. B. (2011). The theory of language socialization. In A. Duranti, E. Ochs, & B. B. Schieffelin (Eds.), The Handbook of Language Socialization (pp. 1–21). Wiley. https://doi.org/10.1002/9781444342901.ch1 – LSという分野のパイオニアによるイントロチャプターです。かなり学際的に書かれているという感想なので、社会学や言語人類学などの入門書を片手にまずは一回読み、LS文献をさらに色々読んだ後に戻ってくるといいかもしれません。噛めば噛むほど味わえる感じです。
Duff, P. A. (2019). Social dimensions and processes in second language acquisition: Multilingual socialization in transnational contexts. The Modern Language Journal, 103(S1), 6–22. https://doi.org/10.1111/modl.12534 DFGの議論を前景的に踏まえた上でのSLAに必要な議論やLSの視点をまとめた論文。
★ L2 Socialization研究に関して (絞れないのであえて5つ選びます; 上記文献のお供に)
Burdelski, M. (2021). Classroom socialisation: Repair and correction in Japanese as a heritage language. Classroom Discourse, 12(3), 255–279. https://doi.org/10.1080/19463014.2020.1789483 – オーラルフィードバックがどのように日本語オンリーポリシーの実践や言語イデオロギーの(再)生産に寄与しているかを日本語継承語の授業でCAを用いて分析しています。
Diao, W. (2016). Peer socialization into gendered L2 Mandarin practices in a study abroad context: Talk in the dorm. Applied Linguistics, 37(5), 599–620. https://doi.org/10.1093/applin/amu053 – 留学生が寮内で行うピアインタラクションの中でジェンダー関係のアイデンティティ構築・交渉をどのように行うかを分析しています (L2 = 中国語)
Morita, N. (2004). Negotiating participation and identity in second language academic communities. TESOL Quarterly, 38(4), 573. https://doi.org/10.2307/3588281 – カナダに留学する日本人大学院生の参加交渉や沈黙に至る過程や帰結を追った研究です。「クラスで話せない・参加できない」を動機づけやその他心理用語の一言に還元したくないそこのあなたへ!
Talmy, S. (2010). Becoming “Local” in ESL: Racism as resource in a Hawai‘i public high school. Journal of Language, Identity & Education, 9(1), 36–57. https://doi.org/10.1080/15348450903476840 ハワイの高校における「ESL生徒」という制度的・アイデンティティカテゴリーと人種を巡る、日々の相互行為中のレイシズムや階層化を詳細に分析しています。特にポジショナリティの書き方が秀逸。今一度読み直されるべき研究。マジでおすすめです。
Hasegawa, A. (2019). The social lives of study abroad: Understanding second language learners’ experiences through social network analysis and conversation analysis. Routledge. https://doi.org/10.4324/9780429505829 日本の高等教育機関でホストされた日本語留学プログラム3つにおける日本語学習者の社会ネットーワークの形成と発達、留学体験、相互行為パターンの軌跡を追った素晴らしい研究。
【🙇♂️結びに】
最後に、本章の出版・執筆体験記の寄稿を押してくださった鈴木祐一先生、本当にありがとうございます。またJ-SLARFの皆様—とりわけLSはじめ社会的・批判的視座に立った応用言語学/SLA研究に「ともに」取り組んでくださっている皆様にも感謝を申し上げます。
ここで自身が構築したバイナリーと矛盾する記述にはなりますが、これからの応用言語学やSLA研究ではますます認知–社会などのパラダイム二元論を乗り越え、Douglas Fir Group (2016) の言葉を借りればreal-world issues、Pennycook (2021) の関心を援用するなれば matters of concern (Latourを援用した表現) に私たちが一丸となって取り組む必要があると感じています。 一方で日本国内の研究動向や関心を追ってみると「そもそもsocial turnは来ているのか」「二元論を乗り越える以前の段階にあるのでは」と感じることも珍しくなく、「ソーシャル」や「クリティカル」が扱われる場であったとしても、それはしばしば大局を俯瞰する中では認知–社会の (または同様の再起的な) 二元論に収斂したりやアンイーブンな構成比になってしまうことは珍しくないと感じています。(各理論の関心事に取り組む重要性を否定するわけではなく、どうその先へ行けるか/取りこぼされているものは何かを考えることは重要という立場です。)そうした状況への応答として、言語社会化の視座や関心が果たしうる交差点としての役割、また日本国内(外)での経験を踏まえた私自身の「語りの立ち位置」から編まれた本章の議論や意義は少なからず何か意味のあるものではあろうと信じています。
これまで日本国内外でSLA研究はじめ「ソーシャル・クリティカル」に取り組んでいらした先人たちの貢献に敬意を表しつつ、本章が従来の議論と射程をさらに広げ深め、また進めるための推進力の一端を担うことができれば幸いです。

